ベンゾジアゼピンの離脱症状はいつまで続く?またその原因
BZDの依存症はなぜ起こるのか?
BZD(ベンゾジアゼピン系薬)は麻薬と同じく依存性の薬です。脳には大きく分けて、興奮系の神経細胞と抑制系の神経細胞があり、通常は両方の系統がよくバランスを取りながら生活しているわけです。
ところが、大きなストレスや苦痛などが加わるとそのバランスが崩れて精神の安定が保てなくなる。そのような患者さん(例えば不安や不穏が強い状態の患者さん)は、そのバランスを是正するために、抑制系の神経を強めてやる必要があります。
BZD(ベンゾジアゼピン系薬)はGABA(抑制系の伝達物質)の働きを強める作用がありますから、これを飲むと抑制が効いて、安定を取り戻し、よく眠れるようになる。BZDは即効性があり、すぐに訴えが消えるので便利な薬として、広く使われるようになり、精神科だけでなく、内科や耳鼻科、眼科、整形外科など、あらゆる診療科の医者が気軽に使うようになったのです。
しかし、依存性になるか/ならないかに関しては、大きな個人差があることを、多くの医者は理解していません。分かり易いように、図を用いて説明しましょう。
① 人の脳の中には抑制系と興奮系の神経細胞があり、これが絶えずバランスを取っています。
② しかし、病気や仕事、人間関係でストレスが加わるとこれば興奮系に作用して、一気にバランスが崩れます。心身の丈夫な人はこの一時的なバランスの崩れに対して、すぐに抑制系の神経細胞が活動し始め、じきにバランスを取り戻します。
③ しかし、病気の程度が酷かったり、心身の弱い人はこれに打ち勝つことが出来ず、精神的バランスを取り戻せません。精神科や心療内科、あるいは一般の開業医などを受診して相談する。そんな時に、BZD(ベンゾジアゼピン系薬)の薬が処方されます。それは抑制系の神経を強めて、その薬のお蔭で一時的にバランスが回復します。
④ ところが、強力なBZDを使ったり、それを長期間飲んでいたりすると、脳がBZDに依存しすぎて、抑制系の神経細胞が活動をさぼり、活動しなくなる(この図で、「抑制」の文字がかすれたり、赤い斜線で消えそうになっているのは、その状態が現れていることを表しています)。
つまり、BZDに依存症になるのです。
そんな状況の中で、急にBZDを減薬したり、中止したりすると、一気にバランスが崩れて、次の図➄のようになってしまいます。
⑤ つまり、抑制系の神経細胞の活動が小さくなる。結果として、興奮系の神経細胞の力が強まり、怒りっぽくなり、不安や不穏が増し、痛みを強く感じたり、音や光の刺激を過度に強く感じるようになり、眠れなくなります。この図で「抑制」の文字が小さい文字で書いてあるのは、その人の脳の抑制系神経が弱体化していることを表し、結果として、バランスが興奮系の方に傾きます。
このような状態に陥ってしまったのが依存症で、離脱反応に苦しめられるわけです。
ではこの状況から逃れるのにはれはどうすればよいでしょうか?
まずは、急激にBZDを止めてしまったのが直接のきっかけですから、もう一度BZDの服薬を再開します。
しかし、再度BZDに頼ってばかりの生活続けると、本来働いていた抑制系の神経の働きがますます弱くなり、症状がさらに悪化します。安定を保つためにさらに多くのBZDを脳が求めるようになる。はじめ1錠で済んでいたものが、1.5錠に増え、さらに2錠に増やしたくなる。
「依存症」どころか「中毒」になってしまいます。
丁度、アルコール中毒や麻薬中毒と同じです。
最初はこのような症状が現れない人でも、ずっと飲んでいたBZDを突然減らしたり、中断したりすると、抑制系のパワーが突然減る結果、興奮系の神経細胞が暴走して、イライラしたり、暴力を働いたり、人格が変わったようになります。
集中できなくなり、他人のいうことを聞かなくなる。耳鳴りがしたり、光が眩しくなったり、痛みが強くなり、悲観的になる。あの時、何故安全を確かめずに飲んでしまったんだろうと自分を責めたり、最初にBZDを処方した医者を恨む。
れを恨んで、泣き叫んだところで症状が良くなるわけではなく、かえって自分がみじめになり、さらに悲しくなる。「後ろ向きになるな!」というのは、この状況をいくら繰り返しても回復できないからです。
それではどうするか?
BZD依存症を引き起こした原因薬がいけないのです。もっと半減期の長い、緩やかなBZDに置き換えることが絶対に必要です。基本は半減期の長いBZDに置き換えて、そのBZD薬に置き換えたあと、少しずつ服用量を減らす、それがアシュトン・マニュアルの原理なのです。
依存症の起こり方には個人差があり、数週間飲み続けただけでも依存症になる人もいれば、数カ月飲んで中止しても、あまり問題を生じない人もいます。
不幸にして依存症になってしまった人をどうするか?
依存症を起こしやすいBZDと起こしにくいBZDがあることをまず、患者さんに正しく理解してもらう。BZDの薬理を知らない医者から「錠剤を半分ずつ、あるいは四分の一ずつ減らして飲んで行けばよい」などと、誤った指導をうけて、取り返しのつかない身体になって苦しんでいる患者は大勢いるので、まず、正しい置換と減薬の方法を理解しなければなりません。
一般に、半減期(血中濃度が半減するのに要する時間)の短いBZDのほうが半減期の長いBZDよりも依存症になりやすい(離脱反応が出やすい)ことをきちんと理解する。そして、それぞれのBZDには等価用量があることと、その換算法を考えます。
一般にはジアゼパムが最も半減期が長い(活性代謝産物まで考慮すれば200時間。これに対して、ブロチゾラムは僅か7時間です)BZDなので、依存症の原因になったBZDを、ジアゼパムにまず置き換え、それから、ジアゼパムの服用量を少しずつ減らして行く方法をとることが多い。
もともと半減期の長いBZDで依存症になってしまったケースでは、その薬を微量ずつ減らして行くという方法もあるが、半減期の短いBZDを微量減量するのは不可能であり、時間を空費することにもなるので勧められない。
特に、ブロチゾラムの半減期はジアゼパムの1/30、等価用量は1/20なので、置換なしに減量を試みるのは無理なことです(5㎎のジアゼパムと0.25㎎のブロチゾラムがほぼ同等の効力をもつ、つまり、ブロチゾラムはジアゼパムより20倍も強い薬なのです)。
ベンゾジアゼピンに依存症になり、離脱反応が起きる原因
ベンゾ系の睡眠剤、精神安定剤には脳神経系の興奮性を抑制する作用があり、この働きがこの薬の薬理作用の基本なのです。
このこのためこの薬を大量に長く使用していると、脳がこの状態に慣れ切ってしまうため、ベンゾがなければ興奮性が高まるという事になります。
音や光に過敏になり、不安・不穏に襲われるのはその為です。
そしてこのような変化は薬の作用が強いほど、また短期間で作用し短期間で体内から消失する薬(つまり、半減期の短い薬ほど)現れやすいのです。
ブラチゾラムは服用するとすぐ眠れ、しかも速やかに血中濃度が下がるから、目覚めも良くて良い睡眠剤として好まれますが、まさにそんな薬だからこそ依存性が強く、離脱反応が起こりやすいのです。
レンドルミン(ブロチゾラム)を毎日連用したとします。
すると、下の図のように血中濃度が服用後急激に下がる事が繰り返されます。
ブロチゾラムの半減期は7時間なので、血中濃度が急激に下がり、寝覚めは良いのですが、やがて血中濃度が下がると単に覚醒するだけでなく、興奮して落ち着かなくなり、痛覚や光・音などの刺激を過度に感じてしまう(上段:斜線の引かれた時間帯が、過度の興奮を感じてつらくなる)。
しかも連用しているとその時間が長くなるので、それを避けるためにさらに用量をふやしたくなる(下段)。毎日、一気断薬を繰り返すような状態になり、耐えられなくなる。
ベンゾジアゼピン離脱症状の対策
そこでこの状態から抜け出すには、半減期の長いベンゾジアゼピン(ジアゼパムは最も半減期の長いBZD薬です)に置き換えて、それから徐々に服用量を減らしていくことで、身体がベンゾジアゼピンのない状態にも耐えられるようになる。
ブロチゾラムのように半減期の短いBZDはどれだけ精密な秤で測って、毎日少しづつ減らす努力をしても、離脱反応を治すことができない。半減期の短いBZDで依存症になった場合は、これをより長い半減期のBZDに置き換えたのち、それを徐々に落としていく。
※以上は横浜ソーワクリニックの別府宏圀先生による見解です。